2024年12月04日
こんにちは、院長の前川です。矯正治療をご検討中の患者さんや、すでに治療を始められた方からよくいただくご質問の一つに、「なぜ矯正治療は時間がかかるのですか?」というものがあります。歯並びをきれいに整えるために、1年から3年、場合によってはそれ以上の時間が必要と聞くと、どうしてそんなに時間がかかるのだろうと疑問に思われるのも無理はありません。今回は、その理由について、できるだけ分かりやすく、丁寧にご説明したいと思います。
歯が動く仕組み
まず、歯がどのように動くのかをご説明します。歯は、ただ骨に固定されているのではなく、「歯根膜」というクッションのような組織を通じて歯槽骨(しそうこつ)という骨に埋まっています。矯正治療では、歯に一定の力を加えることで、歯槽骨が少しずつ再形成され、歯が動いていきます。具体的には、以下のようなプロセスが進行します:
圧力がかかる側の骨が吸収される
矯正装置によって歯に力が加わると、歯槽骨が少しずつ吸収されて歯が移動するためのスペースが作られます。
引っ張られる側に新しい骨が作られる
歯が移動する方向の反対側では、骨が再形成されて歯を支える構造が作られます。
このプロセスには時間がかかり、一気に速めることはできません。もし過剰な力をかけて急激に歯を動かそうとすると、歯根が短くなる「歯根吸収」や、骨や歯根膜へのダメージなどのリスクが生じます。安全かつ健康的に歯を動かすためには、少しずつ、計画的に進めることが大切なのです。
個人差の影響
矯正治療にかかる時間は、患者さんごとに異なります。歯並びや噛み合わせの状態によって、治療の難易度が変わるためです。例えば
軽度の不正咬合
前歯が少し重なっている場合や、隙間がわずかに空いている場合は、比較的短期間で治療が完了することがあります。
複雑な不正咬合
上下の顎の位置が大きくずれている場合や、多くの歯を大きく動かす必要がある場合は、治療期間が長くなります。
また、患者さんの年齢や骨の柔軟性も影響します。一般的に、子どものほうが骨が柔らかく、歯が動きやすい傾向にありますが、大人の治療でも同様に適切な計画を立てることで、美しい歯並びを実現できます。
調整の頻度
矯正治療中は、定期的に調整を行う必要があります。これは、歯が少し動いた後に新たな力をかけ、次の段階に進めるためです。しかし、歯が動いた直後は周囲の組織が安定するまでに時間がかかるため、調整は1カ月に1回程度の頻度で行われるのが一般的です。これも、矯正治療に時間がかかる理由の一つです。
骨や歯茎への負担を考慮
矯正治療では、歯だけでなく、骨や歯茎にも影響があります。歯が動く過程で、骨や歯茎の状態をしっかりと観察し、必要に応じて治療のペースを調整することが大切です。無理をして治療を進めると、歯周病のリスクが高まるなど、歯の健康に悪影響を及ぼす可能性があります。そのため、治療期間を長めに設定して、患者さんの状態に合わせた安全な治療を進めることが求められます。
患者さんの協力も重要
矯正治療の成功には、患者さんの協力も欠かせません。特に、以下の点が治療期間に影響を与えることがあります
装置の装着時間(マウスピース矯正の場合)
決められた時間、きちんと装置を装着しないと、治療が予定通りに進まなくなります。
顎間ゴムの使用
顎間ゴムを適切に使用することも、治療期間を短縮するために重要です。
定期受診
調整が遅れると、治療全体の進行が遅れることがあります。
矯正治療は長いけれど価値がある
矯正治療は確かに時間がかかりますが、それには理由があります。一つひとつのステップを丁寧に進めることで、患者さんにとって安心で安全な治療を提供することができるのです。治療が終わり、鏡の中で整った美しい歯並びを見たとき、多くの患者さんが「やって良かった」と感じてくださいます。それは、長い治療期間を乗り越えたからこそ得られる喜びでもあります。
もし矯正治療を始めるか迷っている方がいらっしゃいましたら、ぜひ一度ご相談ください。お一人おひとりの状況に合わせた治療計画を立て、一緒にそのゴールを目指していきましょう!